葵せきな先生書き下ろしTwitter小説

30【三角瑛一と惚気話】8月31日 掲載

ゲスト挿絵イラスト「祐馬」さん

「天道さんと雨野君って、普段何喋ってるんですか?」
 ある日のゲーム部にて。一時休憩に入ったボクは、天道さんに何気なく訊ねた。
 彼女は少し考えてから返してくる。
「互いの好きなところとか」
「おっと一口目にして胃もたれが……」


 早速げんなりして、その場を去ろうとするボク。
 が、天道さんに「お待ちなさいな」と袖を掴まれた。
「雨野君のどこが素敵かと言うとですね」
「聞いてませんけど!」
「まず声ですよね」
「うぅ、お腹一杯だよぅ……」


 滂沱の涙を流すボク。が、そんなボクに対して彼女は懇々と続ける。
「彼の澄んだ優しい声ときたら、まるでエイトビットサウンド」
「それ褒めてます?」
「彼の愛らしいビジュアルはドット絵を彷彿とさせます」
「貶してますよね?」


「とんでもない。要は私にとって彼は最早レトロゲーみたいなもの、ということです」
「相変わらず褒め言葉に聞こえない!」
「ちなみに彼側は私のことをよく『VR』で喩えます」
「格差! なんか表現に格差ありませんか、そこ!」


「ここで一つ言っておきたいのは、雨野君は私の中で既に……全てのRPGを超えている、ということです」
「安い宣伝文句みたいなの来た!」
「雨野君の中の私もまた、全てのホラーゲームを超えているらしいです」
「恐れられてますよねぇ!?」


「そんな雨野君は、ゲームキャラで喩えるなら……愚直な最初の雑魚敵ですね!」
「今のは確実に貶しましたよねぇ!」
「ちなみに彼は私のことを勇者やラスボスに喩えがちです」
「格差!」
 いよいよツッコミ疲れて、がっくりと肩を落とすボク。


 と、天道さんが、優しい笑顔で……締めくくるように、告げて来る。
「つまり、彼との会話は、いつも楽しい、ということです」
「そうですか。……良かったですね」
「ええ」
 ……うん。二人は、本当にお似合いなカップルのようだ。


 いい空気の中、ボクは天道さんに微笑むと、彼女に背を向け、その場を離れようと……したところで、再び袖を掴まれた。
「さて、雨野君の魅力の続きですが」
「…………え」
 この日以降、ゲーム部で天道さんに彼氏の話題を振る者は消えた。
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