葵せきな先生書き下ろしTwitter小説
22【雨野景太とプリクエル――前編――】7月12日 掲載
ゲスト挿絵イラスト「かまぼこRED」さん
「はぁ……」
一人きりの休み時間。居心地の悪い教室の窓から外の景色を眺めてため息を吐く。
音吹高校に入学してから一ヶ月。僕、雨野景太に友人は一人もいなかった。
何かをやらかしたわけじゃない。むしろ、何もしなかった結果が、これだ。
クラスメイト達が仲良しグループを作って雑談に興じる中、僕は一人スマホをいじる。
すると、別に盗み聴くつもりはなくとも、彼らの会話が耳に入ってきた。
「やっべぇな、あの金髪の女子! オーラぱねぇわ!」
「だよな!」
可愛い女子がどうとかという、自分とは本当に無関係の世界の会話。
と、金髪女子に関する会話がそれほど盛り上がらなかったのか、彼らがちらりと僕の方に視線を送ってきた。
……いやな流れだ。僕は席を立つと、トイレに向かうことにした。
道中、他の教室内が視界に入ってくる。中でも特に印象的だったのが、髪を鳥○明の漫画よろしくツンツン立てた男子が中心になって「う、うぇーい?」と騒いでいたクラスだった。……世の中、不思議な人もいるものである。
引き続きトイレへと続く廊下を歩いていると、正面から海藻髪の女生徒が歩いてきた。
このままだとぶつかるので僕は右に避けるも、彼女も同じタイミングで同じ方向に避けてしまう。何度か同じことを繰り返すも、その都度、同じ方向に避ける僕ら。
『す、すいませんっ』
果てには謝罪の言葉まで被る。また互いに臆病なせいか、俯き加減で相手の顔もろくすっぽ見ずに対応しているため、余計に状況が解決しない。
結局、たっぷり一分はかけて僕らはようやくすれ違えたのだった。
トイレの前まで来たところで、今度は黒髪おさげの女子生徒が、大量の本を抱えて歩いている現場に出くわした。
ラノベ主人公なら颯爽と手を貸す場面だが、生憎僕は気弱なモブキャラだ。
迷っている内に、他の友達が駆けつけてきてしまった。
「あぐりちゃん、手伝うよー」
「ありがとう、山内さん」
「ところで、どしたのそれ? 全部……女性誌?」
「図書室から借りてきたんだ」
「……なんか古くない?」
「いいの」
そんなやりとりを交わしながら去って行く二人。
「(どうして僕は、人助けにさえ、足がすくむんだろう……)」
手を貸したいとはすぐ思うのに、次の瞬間には「僕なんかが話しかけたら迷惑かも」という発想が湧いてきてしまう。
居場所のない高校生活が、僕から奪ったものは大きかった。
一人きりの休み時間。居心地の悪い教室の窓から外の景色を眺めてため息を吐く。
音吹高校に入学してから一ヶ月。僕、雨野景太に友人は一人もいなかった。
何かをやらかしたわけじゃない。むしろ、何もしなかった結果が、これだ。
クラスメイト達が仲良しグループを作って雑談に興じる中、僕は一人スマホをいじる。
すると、別に盗み聴くつもりはなくとも、彼らの会話が耳に入ってきた。
「やっべぇな、あの金髪の女子! オーラぱねぇわ!」
「だよな!」
可愛い女子がどうとかという、自分とは本当に無関係の世界の会話。
と、金髪女子に関する会話がそれほど盛り上がらなかったのか、彼らがちらりと僕の方に視線を送ってきた。
……いやな流れだ。僕は席を立つと、トイレに向かうことにした。
道中、他の教室内が視界に入ってくる。中でも特に印象的だったのが、髪を鳥○明の漫画よろしくツンツン立てた男子が中心になって「う、うぇーい?」と騒いでいたクラスだった。……世の中、不思議な人もいるものである。
引き続きトイレへと続く廊下を歩いていると、正面から海藻髪の女生徒が歩いてきた。
このままだとぶつかるので僕は右に避けるも、彼女も同じタイミングで同じ方向に避けてしまう。何度か同じことを繰り返すも、その都度、同じ方向に避ける僕ら。
『す、すいませんっ』
果てには謝罪の言葉まで被る。また互いに臆病なせいか、俯き加減で相手の顔もろくすっぽ見ずに対応しているため、余計に状況が解決しない。
結局、たっぷり一分はかけて僕らはようやくすれ違えたのだった。
トイレの前まで来たところで、今度は黒髪おさげの女子生徒が、大量の本を抱えて歩いている現場に出くわした。
ラノベ主人公なら颯爽と手を貸す場面だが、生憎僕は気弱なモブキャラだ。
迷っている内に、他の友達が駆けつけてきてしまった。
「あぐりちゃん、手伝うよー」
「ありがとう、山内さん」
「ところで、どしたのそれ? 全部……女性誌?」
「図書室から借りてきたんだ」
「……なんか古くない?」
「いいの」
そんなやりとりを交わしながら去って行く二人。
「(どうして僕は、人助けにさえ、足がすくむんだろう……)」
手を貸したいとはすぐ思うのに、次の瞬間には「僕なんかが話しかけたら迷惑かも」という発想が湧いてきてしまう。
居場所のない高校生活が、僕から奪ったものは大きかった。