葵せきな先生書き下ろしTwitter小説

7【上原祐と高校デビュー2】6月21日 掲載

ゲスト挿絵イラスト「うに蔵」さん

 ある日の帰り道。カノジョたる亜玖璃が俺の隣を歩きながら「あとさ」と切り出してきた。
「祐は『高校デビュー』にあたって、ビジュアル面では何を心がけたの?」
「ああ、それか。そうだな……」
 俺は一年半前を回想しつつ、彼女に応じる。


「まず、髪をツンツン逆立てた。スク○ニ系作品も真っ青なほど、逆立てた」
「喩えは分からないけど、ヤバいのは伝わってきたよ」
「ああ。周囲の視線を察して、一週間でやめたよ」
「賢明だねと言いたいけど、なぜやる前に気づけなかったのさ」


「次に服を破いた」
「破いた」
「それはもうズタボロに」
「ズタボロに」
「更に体へ傷をペインティングした」
「傷をペインティング」
「ダメージ上原祐の完成だ」
「ダメージ上原祐」
 オウムの如く言葉を繰り返す我が彼女。


 俺は満を持して、変身の結果を語る。
「そうして俺は……夜の街で警官に保護された」
「保護された!?」
「最初は滅茶苦茶優しかったポリスメンの目が、事情を聞くにつけ、どんどん冷たくなっていくあの恐怖といったら……」
「なにこの話」


「そして俺はリア充ファッションの神髄を悟ったんだ」
「急に現れたな神髄」
「『普通の格好こそ至高』、とな」
「亜玖璃のここ数分を返せ!」
「こうして俺はリア充になった」
「こんなに無価値な講義聞いたの、亜玖璃初めてだよ!」

 俺の話を聞き終えた亜玖璃が、あんぐりと口を開けていた。……ふ、どうやら俺の華麗なる「リア充ファッションレクチャー」に言葉もないようだ。
 俺は前髪を掻き上げて、我がカノジョに告げる。


「いいんだぜ、亜玖璃。早速この《ファッションの神髄》を雨野に教えてやっても――」
「や、結構です。マジで」
 そう断った亜玖璃の瞳は、俺がかつて見たこともない程に虚ろだった。
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