葵せきな先生書き下ろしTwitter小説

23【雨野景太とプリクエル――後編――】7月13日 掲載

ゲスト挿絵イラスト「かまぼこRED」さん

「トイレ行っただけなのに、なんか疲れたな、この休み時間……」
 ぼっちは校内を移動するだけで疲弊する。……世知辛い世の中だ。
 僕は大きく嘆息すると、教室へと続く廊下を折れ、そこで……。
「…………」
 初めて、天使を、見た。


 同じ三次元の人間とは思えない、金髪碧眼の美しい女子生徒がそこにいた。
 彼女は周囲を沢山の友達に囲まれながら、鬱々としたモブキャラぼっち男子の横を抜けていく。
 それは、あまりに対照的な陰と陽の構図で。


「天道さん、先程のレシーブ凄かったですね!」
「ありがとう。チームの勝利に貢献出来て良かったわ」
「数学での先生への間違い指摘も、痛快でした!」
「いえ、あれは、出過ぎた真似をしてお恥ずかしい限りです」


 友人達と楽しげに会話しながら、こちらなどには目もくれず去って行く女子生徒の背中を、僕はぼんやり見送る。
「(……同じ学校の、同い年なのにな……)」
 そうとは思えない程、彼女とは何もかも違っていて。


 同じ場所、同じ時間に存在しているはずなのに、交わらない存在。
 二次元と三次元のように隔絶された存在。 
 そんな人も、この学校には、いる。
 その事実が今の僕には、なぜだか――
 ――なぜだかとても、嬉しくて。


「(まるで、僕の考える『ゲーム』を体現したみたいな人だな……)」
 その存在に現実味がなく、あざといぐらいに理想的で、近づきたくても近づけなくて。
 だけど……無関係な第三者として外側から眺められるだけで、充分幸せでもあって。


 ……正直、夢も希望もない高校生活だ。
 けれど。
 たとえ遠くても、触れられなくても……そこに「光」があることを、知れただけでも。
「うん、今日も頑張ろ」
 僕は彼女に少しだけ元気を貰うと、退屈な日々を再開したのだった。
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