葵せきな先生書き下ろしTwitter小説

3【星ノ守千秋とゲーム開発】6月15日 掲載

ゲスト挿絵イラスト「しろがね」さん

 とある秋の日の夜。新作ゲーム制作に着手した自分……《のべ》こと星ノ守千秋は、企画の初期も初期、主人公設定の段階にして、既に迷いの最中にいました。
 目の前にある最終選択肢は、二つ。
「《食虫植物》か、それとも《長芋》か……」 


 どちらも実に平凡で王道な主人公像なだけに、甲乙つけがたいです。
「まず《食虫植物》が主人公の場合は、捕食対象たる虫と恋に落ちる《食虫植物》のジレンマが描きたいですね」
 うっとりと自らの素晴らしい構想に酔いしれる自分。


 その創作意欲はとどまるところを知りません。
「一方で、《長芋》主人公がライバルに、『お前には長芋として一番大事なものが欠けている。それは……粘りだ』と言われるシーンも描きたいです!」
 これは燃えます。燃えざるを得ません。


「どうしましょう、全然決められません。ではでは、もう少し深いアプローチをば!」
 自分はテキストファイルに「ゲーム目標設定」の項目を作り、構想を始めます。
「《食虫植物》は虫を食べてパワーアップ……させるのは安直ですね」


 自分は一度背もたれに体重を預け、少し考えた後、テキストファイルに打ち込みます。
「《食虫植物》は、虫を食べて成長するものの、同時に《カルマ値》も上昇し、それが一定数値を超えると、想い人ならぬ想い虫まで補食してしまいます」


 神ゲーの予感に打ち震えます。では次に、《長芋》の企画をば。
「《長芋》主人公の夢。最終目的。それは……なんと《バナナ》になることなのです」
 これは切ない。夢と才能問題について、実に踏み込んだ残酷設定。神ゲーです。


 《食虫植物》と《長芋》。この実に魅力的すぎる王道主人公設定の二人(二つ?)の狭間で揺れ、ついには決め切れなかった自分は、思い切って、妹の星ノ守心春に相談してみることにしました。
 果たして、その答えは……。


「人間で」
「え? あ、でも、あのあの、どちらも実に魅力的な――」
「人間一択で」
「あの――」
「悪いこと言わないから、人間になさい。ね?」
「……はい……」
 こうして本日、世界からまた一つ、神作誕生の芽が摘まれたのでした。
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