葵せきな先生書き下ろしTwitter小説

13【三角瑛一と主人公デイズ】6月29日 掲載

ゲスト挿絵イラスト「urute」さん

「三角君って、休日はなにしてるの?」
 ある日の休み時間。廊下でばったり出くわした友人の雨野君にそう訊かれ、ボクは「え、そうだなぁ」と呟いて窓の外を眺めた。
 前回の土日を回想する。まず思い出されたのは――義妹の誘拐だった。


 土曜日の朝は、窓ガラスがけたたましく割れる音で目が覚めた。
 ベッドから跳ね起きたボクが、音のした義妹の部屋に向かうと、そこには……気を失った義妹を小脇に抱えた、道化師の仮面を被った男の姿が。
「遊びの時間だ、三角瑛一」


 不敵に笑いながら飛び去っていく道化師。
 ボクは一度無力感に打ちひしがれるも、戦友の女性に頬を張られ、復活。
 仲間をかき集め、新装備を調達し、短時間の修行パートの末に敵の居城へ辿り着いたのが、土曜深夜のことだった。


 それからは激闘に次ぐ激闘だった。敵の四天王を食い止めるべく仲間は一人、また一人と脱落していき、遂には一人になってしまうボク。
 そうして辿り着いた最奥の広間でボクを待っていたのは、花嫁ドレス姿の義妹と、道化の仮面を被った男だった。


「さあ、俺と遊ぼう……瑛一」
 その言葉と共に始まった道化師との最終戦闘は、熾烈を極めた。逆転に次ぐ逆転。後出しジャンケンに次ぐ後出しジャンケン。最初からその技を出せよというツッコミは野暮だと言わんばかりの、インフレに次ぐインフレ。


「ぐはぁ……!」
 そうして最後にボクが渾身の一撃を決めたその時。
 道化の面が割れ、その下からは素顔が。
「とう……さん?」
「ふ……大きくなったな、瑛一」
 倒れる父さんに駆け寄るボク。彼の口からは、とめどなく血が流れていた。


「お前のせいじゃないさ。病で先は短くてな……」
「どうして……どうしてだよ、父さん!」
「ふ。単純さ。瑛一……昔のお前との約束を、果たすためだ」
「ぼ、ボクとの約束?」


 そうして父さんは事切れる間際に、笑顔で告げた。
「いつか、本気で、遊んでねって……。……ぐふ」
「と……とうさぁぁぁぁぁぁぁああああああん!」
 それは、居城突入から約一日。日曜の夜の出来事だった。


「三角君って、休日はなにしてるの?」
 回想から戻ってきたボクは、雨野君の質問に、こう答える。
「……土日は家族と遊んでたよ」
「あ、僕も弟とゲームしてたよ。一緒だね」
「だね」
 このように――僕と彼は、実に気の合う友達です。
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